秋の夜は
虫たちの世界

身を潜め
秋を待っていた

おそるおそる鳴いてみた。

「わぁ、われながらいい声!!」
酔いしれて、夜通し歌う。

「私の声も聴いて!」
われもわれもと歌い始める。

気分はもう
ミュージカルスター。
歌い出したらとまらない。

みんなが舞台に立っている。
観客はいなくても気にしない。

「私たちのために 芸術の秋があるの。」


違う場所では 虫たちの運動会。
運動神経の良さは親ゆずり。
割れんばかりの声援。

「だって秋は 私たちのものだもの。」

今夜もまたお祭り騒ぎ。
うれしくてたまらない。

「君たちのせいで 秋の静寂を感じられないじゃないか」
ロマンチストの虫は叫ぶけれど

だれの耳にも入らない。

いつのまにか
秋の夜は
虫の声の中に。

大騒ぎなのに
涼しげな

虫たちの声の中に。