強い光の中で立つあなたに
あなたの影は言いました。

 「私はあなたの影ですが
 もう あなたから離れます」

それはあなたが絶好調の時でした。

気にもとめていなかったあなたは
心の中で思います。

 「私の影がわたしから
 離れられるわけがない。」

あなたは心でそう思い、
てきとうに受け流してしまいました。
放っておいてもついてくる、
それが影というものだろう。
変なことを言うやつだ、と。

あなたの影には
あなたの思うことはすべて伝わっていました。
影は黙っていましたが
心の中でつぶやきました。

 「強い光を受ければ受けるほど
 わたしという影は強まります。
 けれど、まぶしい光、
 色とりどりの美しい光に照らされた
 今のあなたは、
 自分の影を振り返って見ることも忘れてしまいました。
 つねにそばにいて
 あなたを見ているわたしだからこそ
 あなたのすべてが見えてしまいます。
 もう わたしは必要ないようです。」

そうつぶやくと一瞬にして
静かに消えてなくなりました。

影を失くしたあなたは
まさか、とは思いましたが
特には何も困りませんでした。
さして影響のないことだ、と
知らん顔で過ごしていました。

雨の日や雲のかかる日には
まったく気にもなりませんでした。
どうってことないと思っていました。

けれど お日さまが燦々と注がれる日には
影のない自分を見て あらためて驚きました。

そして光が注がれる時には
消えた影のことを考えるようになりました。

あるべきものがない自分、に気づいたからです。

光と影は ひとつのものでした。
光があるから影があり、
強い影がある時は自分に
強い光が注がれていました。

そのことを知るべきでした。

影のないあなたは
もう知らん顔で生きることを決めました。

けれど時々 何かが足りないと
少し考えるようになりました。

消えた影は
あなたの心に影を落とし
あなたの胸の中で存在するようになりました。

失くした影をあなたは常に探しているのでした。