あたしは 小さなクロッカス
ここのお庭で迎える春も
もう6度目になるかしら。
お家の人は私を見ると
「かわいい」「かわいい」
うれしそうにつぶやいて
そして
ニコニコ微笑むの。
だから私は早く見てほしくて
まわりの三つ葉がひしめく中で
今年も一生懸命背伸びした
そして今年も早くに咲いて
お家の人に見てもらおうと
つんつんかわいい蕾をつけて
わくわくしながら待っていた
なのになのに気づかない
お家の人は 遠い目をして
お空ばかりを見上げてる
"ここにいるよ
ここにこうして"
あたしは今年もあなたのそばで
可愛くちゃんと咲いてるよ
早くしないと枯れちゃうの
ずっと咲いてはいられない
早く気づいてくれなくちゃ
花の命は終わっちゃう
来る日も来る日も待ちぼうけ
あるお日様がまぶしい日
お家の人が
やっとあたしに気がついた
あたしを見て はっとして
そして「あぁ!!」と声を上げ
泣きそうな目をして言ったのよ
「今年も咲いてくれたのね。
クロッカスかわいい。
ありがとう。
もう 春なのね。」
あたしはずっと聴いていた。
うれしく心に響いてた。
もう お花は終わりなの。
でも精一杯咲いたから。
また来年もこうして
あたしを見てくれるかな。
あたしは黄色いクロッカス。
おしゃまでかわいいクロッカス。
あたしは春を 連れてくるお花。