やさしい五月に咲く
むらさきかたばみ
今年も咲いて
そばにいるよ、と 微笑んでいる。
むらさきかたばみは
幼い日のわたし。
ただ
母の帰りを待ちわびて
母のそばにいることが
すべてだったわたし。
母の帰りを待ちながら
頭の中で描く物語は
どこまでも果てしなく広がり
わたしの理想は
現実から遠のいた。
いつしかひとりですごす時間が
わたしを満すようになっていった。
大人になって
もしかしたら
わたしも夢が持てるかも・・・と思った。
だけどそれは
子供の頃からのクセで
夢を描こうとすればするほど
現実から離れていってしまう。
形に出来る夢など
描けはしなかった。
静かに振り返る五月に
そっと寄り添う
むらさきかたばみ。
母のそばにいることが
すべてだったわたし。
幼い あの日のわたしを
映しだしてくれる花。
何も変わらないこと
おしえてくれる花。