e1b3f9f1.jpg

美しき月 
はるか頭上に昇りて

特別な十三夜の夜には
菊の花ちりばめし着物に
身体をつつみてひとり眺むる

金木犀の甘ひ香り
風が運びて
過ぎし日々をいざなふ

そっと
うなじに手を当てて
愛しき人の名を呼べば

この胸に注がれし月の光
ただ悲しみを照らす

あの日から心に響く鐘の音
耳を塞ぎても消ゆることなく

ただ一点に集まりし光の中で
思ひ出は緋色に染まりし。

月あかりの中
紅さす薬指は
この胸の熱き想ひを知りて

いつか遠く記憶の彼方に
すべてを閉じ込むることのみを願ふ

こんな十三夜の夜には。