月が腰掛のように細く輝く夜
兎はばたばたと神さまに会いに来ました。

「いそがしい、いそがしい。
 私はどうしてこんなにいそがしい。
 月が満ちるまでに
 神さまのお役目 こんなにたくさん。
 朝から晩まで走ってて
 なんだか本当に目が回る。
 どうしてこんなにいそがしい。」

息を切らし 耳をピンと立てて
神さまの言葉を待つように
やっとそこに座りました。

神さまは 言いました。

「あなたはすべてを背負いたい、
 忙しくしたいだけなのです。
 もうすでに 任務が完了していることまで
 いつまで背負って走ろうとするのですか。」

兎は 頬をプクッとさせて
まんまるな目をさらに丸くして言いました。

「いえいえ神さま。
 私の任務は終わっていないのです。
 まだまだ私はやり足りないのです。
 まだ何も報われていません。
 がんばればがんばるほど仕事は増えて
 私はなんだか目がまわる。
 だけどもっともっと
 私はがんばらないといけないのです。」

神さまは 少し笑って言いました。

「少し楽におなりなさい。
 任務完了したものは
 今夜あなたの記憶から
 そっと消しておきましょう。」

兎は 不満げに座っていましたが

「そうだ!急がなくちゃ。
 私はこうしていられない。
 神さま失礼いたします。
 また行ってまいります!!」

そう言って 失くした記憶にも気づかずに
次の任務へと走って行ってしまいました。

細い月だけが
静かに微笑みながら
兎を追いかける夜でした。
201101031652000


norie1